真面目に生きてて何が悪い! ハローウィンプチ番外編


総会の帰り、教室に向かっていた唯はふと思いついて腕を持ち上げた。
手首にはまったアナログの時計は、学校が定めた下校時刻よりも十数分ほど早い。まだ大丈夫だとふんだ唯は 少しそわそわしながらも、心なし歩を早めた。
「薙沢?」
隣を歩いていた三津谷が不思議そうに首を傾げる中、唯は目前に迫った教室に我先にと入り込む。誰もいない 教室は西日を浴びて長い机の影が床の上で幾重にも重なってみえた。
茜色に染まる教室を小走りで自分の机に戻り、唯らしくも無く少々乱暴に掴んだ鞄を持ち上げ振り返ってから 唯は少々派手な声を上げた。
目の前に三津谷が立ちはだかっていたからだ。
「み三津谷君っ、ビックリするじゃないの!」
思わず責める口調になった唯に軽い謝罪を一つ返し、三津谷は怪訝そうに唯を見下ろす。その瞳はどこか剣呑としていた。
「どうしたんだよ、薙沢。なんか焦ってねえ?」
「焦ってるというか。ああ、あの三津谷君。今ちょっと時間ある?」
「時間?―あるっちゃあるけど。部活に顔出して帰るだけだし」
サッカー部は遅くまで練習をしているが、さすがにこの時間から参加しても大概引き上げる間際なので意味が無いのだという。それでも一応挨拶には顔を出さないといけないというからには、きっとそこまで時間を使わせてはならない。そこまで僅かの時間で逡巡して、唯は三津谷を気遣わしげに見上げた。
「あの、そこまで手間は取らせないからちょっと一緒についてきてくれる?」
「え、いいけど…」
「じゃあ来て」
その言葉を聞くやいなや、唯は早速行動に移した。


「来てって、保健室かよ」
どうしてか少し落胆のような声を出す三津谷を怪訝に想いつつも、唯は律儀にノックをして扉を開けた。
「お前等、何してる。早く帰れ」
強面の保健医・上岡がデスクに座ってこちらをやや不機嫌な面持ちで睨みつけていた。
「先生がその顔すると余計こええ」
「ほっとけ。お前等に怖がられても痛くも痒くもない」
三津谷達のやり取りを耳にして苦笑しつつも、唯はここでようやっと安堵の息をついた。
「良かった。先生もう帰られたかどうか心配だったんです」
「なんだそりゃ」
無言で目を細めた上岡の横で、三津谷が呟く。それすら気にせずに、唯はそっと自分の鞄を開けた。
「手間はとらせないわ。先生も見たところもう帰られるようだし、三津谷君もはやく部活のほういかないといけないものね。―はい、これ」
鞄から慎重に出されたものは、透明な袋にはいったクッキー数枚。かぼちゃの形をしたチョコレートクッキーのよこに、幽霊型のプレーンクッキーがセットになっていて、可愛らしい。ただ、それはどこからどうみても手作りっぽかった。
「え、これ俺貰っていいの?つうか薙沢が作ったのか」
「ええ。良かったら食べてくれない?存外に上手にできたものだから、おすそわけしたくて」
真っ先に受け取りながらも驚く三津谷に、唯は珍しくも嬉々とした表情で説明する。
「でもね。あまり菓子類って学校にもってきていいものではないから。一目に付いちゃいけないと思って、 渡すのがこんな遅くになっちゃったの。ごめんなさいね」
いやすげえと簡単の声をあげ素直に喜ぶ三津谷の横で、上岡もじぃとクッキーを眺めていた。
「ありがたく貰っておく。…しかし、器用なもんだな」
「ありがとうございます。はじめは無難な形にしようと思ったんですけどね。 そういえばハローウィンってもうすぐだなって思って。最初カボチャの形作ってみたらあまり上手にできなくて、半分ムキになって作っていたらカボチャばかりになってしまったので。じゃあ、お化けも作ってしまおうって」
結局いつもの数倍時間かかってしまいました、と苦笑する唯に三津谷と上岡は意味ありげに目線を交し合う。
「おまえは…」
「ほんっとに、薙沢って」
「「真面目な奴」」

「え、ええっ。そんな話してましたか!?」
焦る唯相手に、男二人が笑う。最近定着しつつあるこの組み合わせと話の落ちに、唯は苦笑しつつも しまいには自分も笑ったのだった。

(2007年10月28日〜同年11月1日)

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