「こんな出会いもいいではないか」 プチ続編
7.年明け


あと数日で大学の講義も再開される。のんびりできるのはあと少し。大学一年でいまだ慣れてない自分には恐怖以外の何物でもない試験が迫っている。ノートは誰に借りずとも大丈夫な程度は書いてはいるが、だからといってそれがテストの点へと実を結ぶとは限らないから。横峰果恵は大仰とも取れるため息を吐き出した。
(あの人なら、新年早々縁起が悪いとか、いいそうだよなぁ)
そんな傍白とともに思い浮かべるのは、果恵と友人だと言い張る母校の社会科教諭・家持章仁その人だ。
この冬はなにかと忙しいらしく、受験生の強化コースの教師として年末を奮闘した後、年明けの今も仕事を黙々とこなしているらしい。
しばらく会っていないのに何故知っているのか。なんてことはない。数日に一回、わりと長めの電話をしているからに相違ない。
『ああくそっ。クリスマスも初詣もまともに祝えやしなかった』
家持にしては荒々しい言葉遣いでつい先程もそういって愚痴っていた。どこの宗派かはっきりしてくれませんかねと雑煮を口に入れながら会話に応対していたのだが。
『馬鹿が。おまえと一緒に祝えて騒げたら何でもいいんだよ、要するに』
さらりとそんな事を言うものだから、果恵としては対処に困る。電話越しで顔を確認されないのもいいことに、赤くなった頬を止めようがなかった。憎まれ口すらでてこない。
「なんだかなぁ。私にどうしろっていうのかね、あの先生は」
ボソリと呟く。相手があまりにも悔しそうに連呼するものだから、思わず言ってしまった。誘ってしまった、自分から。『初詣なら、まだ間に合いますよ?』と。
『それは良案だ、果恵!』
嬉しそうなその声が耳元に届いたとき、どうしたことか嬉しかった。勿論、いつものやれやれといった疲れも感じたのだけれども。
「今年は、どうなるんだろうな」
初詣で、せめて変な反応をしないように。私のことを友人という、あの変な教師相手にうっかり頬を染めたりしないように。念入りにお賽銭は弾まなければと、果恵は財布の小銭をチェックするべく立ち上がった。

 (2008年1月3日)

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