狼・番犬・羊の関係 プチ番外編
―羊、更に諦観する―


白畠香乃には二つ上の姉が一人。名を朋希といって、凛々しく素敵な人だと香乃はずっと彼女を慕っていた。
空手の有段者である姉はともすれば男女問わずに恐れられる存在で、少々妹の構いすぎるきらいがあるが 香乃にとってそれは煩わしいものではない。ただ一つ、妹ながらに酷く心配してしまう可愛らしい姉の一面が 徐々に表面化してきている。
一人の男のせいでだ。
その男、名を倉越雄といって彼も朋希同様高校空手で一目を置かれている人物で。長いこと朋希を想い続け、 ほんの一瞬の姉妹の隙をついた彼はいまや朋希の恋人である。
抵抗を続けつつも少しずつ相手の手中におさまっていく姉と、それをそれはそれはいとおしそうに 微笑みながら手をこまねく雄。二人の関係は始まりの唐突さを忘れるほどに、徐々に穏やかに縮まっていく。
今まで男女交際というものに興味がなかった朋希に対する雄の態度は至って真摯だが、それが生来の気質なのか時折度を超えるスキンシップを敢行する。それすら香乃にとっては卒倒ものだが、彼は必ず妹である香乃が いる場所で実行をするのだからたまらない。
いつの間にやら姉妹の家にまで上がりこむようになった雄は、今目の前で朋希を懐柔している 最中である。根が真っ直ぐな朋希はすぐに雄の拵えた罠にそれはそれは簡単にひっかかる。
あっさりと雄の腕の中に捕獲された朋希のうろたえぶりといえばそれはもう可愛らしくて。
それまではまだ余裕を持って見ていられた香乃は、次の瞬間固まった。
雄が辛抱たまらんとばかりに朋希の頭を撫で、流れる動作でその頬に唇を寄せたのだ。
朋希の悲鳴が上がる中、香乃もまた心の奥底で声を上げる。

確かにあの時、一歩及ばず姉を雄にとられてしまって、それを最後に諦観したのは自分だけれども。。
それでも少しは遠慮して欲しいと。いまや完全なる諦めをもって、恨めしげにそんな事を思う。

狼の番犬に対する試みは、いまだ健在で。
そのたびに羊は哀れにもにた思いでため息をつく。



 (2007年10月13日) 戻る小書庫へ本編へ