Dear Your Majesty プチ番外編


*本編よりも後の話しです。本編の9話以降を読後推奨*





城の外にはあいかわらず出られない。けれども、大きくとられた窓越しから充分に伝わる 外の熱気に、エルファは本気で慄いた。
部屋の中から一歩も出ていないはずのエルファの肌も、朝方だというのにもうすでに汗ばんでいる。
特別暑がりというわけでもない自分でも、あまりの暑さにじっとしていられないのだ。今回ばかりは外に出られない今の状況でも構わないと思ってしまう。
城に来てからというもの性に合わない、ついでにいえば似合わないドレスを着せられているが ここ数日はクレーラに懇願してなるべく質素でいて風通しのいいものをじっくり選んで着せてもらっていた。
それほどまでに 今年は特別に暑いだろうことは、もはや部屋で反射する日の光を見ただけでわかる。常の数倍は暑く感じるそれらを 困ったように眺めていると、確かなノック音とともに扉が開かれた。クレーラだ。
さすがというべきか、夏服の支給服を着ているものの彼女の顔からは暑さを感じさせない。いつものように 朝餉の準備をテキパキとはじめた。
「今日も暑そうですね」
「外?あぁ、もう暑い暑い。あまり窓辺によらないことね」
顔をしかめて忠告をしながら、クレーラは机にそっと料理を並べていく。あいかわらず朝から手間のかかったお料理だと内心苦笑をしていたエルファは、ふとその視線を机の端によせた。
エルファの視線に気付いたクレーラが、心得たように笑う。その笑みはどこか得意げだった。
「ああそれ。特別に作ってもらったのよ」
おいしそうでしょうと笑うクレーラの言葉に促されるように、エルファはその器を手に取る。陶器の平皿のなかでたった一つのガラス皿はいかにも涼しげだが、その中身が更に涼しげだ。
エルファも思わず相好を崩した。
「氷菓子。お城でもたべるんですね、懐かしい」
果実や砂糖を混ぜて凍らせた氷を砕いて食べるそれは、この国の夏菓子としてあまりにも有名だ。ただし庶民の食べ物だ。貴族や王族も食べるとはエルファも知らなかった。
「いいや、普通は食べないねえ」
「え?」
不思議そうに首を傾げるエルファに、クレーラはにんまりと笑った。
「我等が国王陛下から、暑さに参ってるであろう御妃様にって。厨房へ直々に命令があったみたいですよ?」
愛されてますねぇ、オキサキサマ?
完全にからかう口調のクレーラに釣られるように、エルファの頬は赤く染まる。熱を持った顔を隠すように 氷菓子に視線を向けて、エルファは途方にくれたような顔をして微笑んだ。
後でお礼を言わなければと、心に秘めながら。




 (2007年8月17日〜10月,Web拍手にて掲載)

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