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トリッキーな君達へ 第五話
「ねえ、ちょっと待って。羽丘さん」 (しまった、やっぱり捕まったか) 早足で歩いていた私を呼び止める女性社員の声を邪険にもできずに、私は渋々振り返った。 情けないくらいに身構える私を許して欲しい。なにせここ数日、男女問わず呼びかけられては同じ質問をされるのだ。彼らから聞かされる質問の内容は、その都度私の心臓を凍りつかせる。だからこそいつもより細心の注意を払って気配を消したり煙に巻いたりとしているのに、人というのはどこからでも現れるというのが相場らしい。今日だって無駄に早く出社したのに、それでもこうして呼び止められている。ここまでくれば嫌気も通り越して私は唯観念することしかできなかった。 おそらく私に追いつくためにロッカー室から走ってきたのだろう。小走りでこちらへと近づいてくる今回の質問者を、私はゆっくりと確認した。顔に見覚えがある。たしか私より一、二年先輩だ。ただ何処の課だったろうか。そんなことを考えている間に、距離はあっというまになくなってしまった。 (そうだ、経理の人だ) 思い出したはいいが、目の前の彼女と私は話したことなぞ一度もない。とくれば彼女が自分に何を聞きたいのか、私には充分予見できた。 「ごめんね、不躾な話なんだけども」 (そら来た―!) 臨戦大戦突入である。私は彼女の言葉を消さんばかりの勢いで、声を張り上げた。 「あなた達、ついに付き合い始めたの?」 「つきあってません」 予想していたものと一言一句違わないその言葉に、憎らしいほど爽やかに応えてやる。 すると彼女も他の人間と同じ様に、驚きに目を見開きそれから少し戸惑ったように私を見つめ返してきた。 (一体なんだっていうんだ、全く) ここ二日ほど、何十回繰り返しただろう同じ問答を思い出してため息をひっそりとつく。 今までの者は怪訝な顔を隠そうともしない私に、この時点でどこかそそくさと私というものから逃げ出すように姿を消すのだが、今回の女性はどうやら違うようだった。 少なくともお茶を濁すようなタイプではないのかもしれない。戸惑いを見せながらも、彼女はその場にいまだ立ったままだった。 おそらくきっと、他とは違うリアクションを見せてくれるらしい。 どうせなら面白いオチがいいなどとくだらない事を考える私の思考など知らないであろう彼女は、狼狽を露におろおろと口を開いた。 「あらわたし、てっきり…だって」 「だって…?」 歯切れの悪いその返事に眉をよせる私の存在など目に入っていないのか。一人の世界に入ってしまった目の前の女性はためらいながら小さく口を動かした。 「茅ヶ崎君、あんなに機嫌がいいものだから―」 「―はぁ?」 茅ヶ崎の機嫌がいいと、どうして自分とつきあうことになるのか。 理屈がさっぱりわからずにいた私は、きっと読み取れない表情をしていたのだろう。 そんな私に慌てたように、見知らぬ彼女は矢継ぎ早に言葉を発した。 「だってね、普段だってそれはもう爽やかな笑顔だけど、ここ数日は全く種類が違うのよ」 「…」 種類が違う。その言葉で思い出すのは、底意地の悪さすら当の昔に超越した悪魔を宿した笑みくらいだ。 (いや、それから…) 給湯室や、博物館。つい最近なら昼休みの公園で。 私へと惜しみなく向けられた、混じりけのないあまやかな笑み。 心の底をそっと一撫でされたような気持ちにされる微笑まで思い出してしまい、私は慌てて視線を地面へと縫い付けた。 (何考えてるんだ、私は…―!) 微かに火照ってしまった頬を見られただろうかと思ったが、目の前の女性は言葉を選ぶのに必死だったようで幸いな事に私の変化には気付かなかったようだった。 「なんていうか。あー、この人本気で嬉しいんだって。いいなあ幸せそうだなって嬉しくなっちゃうような。こっちのほうが照れてしまうくらいに、ほんっとうにいい顔するのよ、ここ数日の茅ヶ崎君」 そういって笑う彼女は、どこかほほえましそうに私を見やる。 「だから、私達てっきりついに茅ヶ崎君の念願がかなったのかな、なんて」 思ったりして。 ポツリとそんな言葉を残して、再び奇妙な沈黙が訪れた。 だけど私は、狼狽ながらもきっちりと頭を下げ礼を述べてから走り去っていく彼女の背を見送る事しかできずに、呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。 (もしかして、皆そんなこと考えたのか・・・?) 噂好きにもほどがあるだろうと、私は思い切り脱力した。私自身は、人の噂話と言うものを好まないが、それでも仕事の合間の噂も起爆剤になるのならばそれもよいとは思う。ただし、その噂の対象が自分でさえなければ。だが、今は正直そんなことはどうでもよかった。 先ほどの彼女の一言から考えを総合するに、納得のいく現象が一つだけある。 総務課を筆頭とする女性人からの私に対する嘲りの視線が、ここ数日輪をかけてひどくなった。 今までは遠巻きからの嫌味だけで実質的に被害を受けてはいなかった。外見からの冷やかしなど、本人自身が自業自得と称しているのだから痛くも痒くもない。だからこそ放っておいたのだが、このごろはどうにもこうにも勝手が違う。仕事がらみのことにまでしつこくからんでくるようになったのだ。これでは静観をきめこむ事は難しい。 (なんだかな) 茅ヶ崎の機嫌がいいから、彼女らもまたその原因が私関連だと思ってこうにも辛くあたるというのか。思春期の学生を対象としたドラマのようだと考えて、その事実にどっと疲れを覚えた。 気に入らないなら、私なんてほっといて告白でもなんでもすればいいのにと思ってしまう。 茅ヶ崎は、確かに人をすましてからかうきらいがあるが、それでも真っ向からの告白をちゃかしたりなんてしない。それだけは断言できる。 きっと誠意ある対応をしてくれるはずなのだが、彼女達にとって重要なのは告白よりも私を排除することのようだ。その事実はどうにも私を気鬱にさせた。 もともと私をからかいのネタにしていたのは知っていた。でもそれを知っていて放っておいたのだから、一概にも彼女達だけに責任があるとは言い切れないのだ。私だって立派にその一因だ。 (いくらなんでも、ヤバイな) 私はため息をついた。 そろそろ上のほうから嫌味の一つ二つを覚悟しておいたほうがいいかもしれない。 (嫌味だけなら、まだいいが) それを理由に部所代えをされる事だって、無いとは言い切れない。今のところ自分の仕事には満足しているし、職場をかえようと考える気も無いのだから、それだけはなんとしてでも避けたかった。 (あぁ、私の平々凡々な生活はどこに…) もともと地味といわれる部類にいたはずなのに、いつのまにやら話題が一人歩きして悪目立ちしてしまっている。 (そろそろなんとかしないと) 私も優柔不断がすぎたかもしれない。 更衣所から仕事場へと向かう廊下を歩きながら、私は自らの行いを振り返りため息をついた。 とりあえず少しずつ奴とは距離をとり、元の関係に戻るほうが好ましい。きっとそうなのだろう。 (でも…) きっとそれが一番に違いないのに、すっきりしない。 似非爽やかで、意地悪で、サタンにもなるあの青年が、それだけではないことを知ってしまった。 食事をするのも会話をするのも、苦痛ではなくて。それどころかむしろ楽しい。 距離をとるべきだ。そう考えているのに、思い浮かぶのはそんなことばかりで。 (やばい…っ!なんなんだ、それ!?) 私は人一人いない早朝の廊下で、顔中が赤く染めて立ち止まった。自分という存在なのに、その感情がさっぱりわからない。 (だからあの時、いけないと思ったんだ) ついこの間の、博物館。閲覧後のカフェでのひと時で、奴の笑顔を見て感じていたそこはかとない感情が、いまここで破裂寸前までふくれあがってきている。 (何とかしないと) 頬の熱を冷ますように深呼吸をしながら、そんなことを考えていた。 「あ、やっぱりここにいた。今度は何飲んでるんですか?」 「………」 なんでこうも簡単に見つかってしまうのだろうか。 私の憩いの場所である、無人の給湯室で私は卒倒しそうになった。 毎度どうやって私の居場所を突き止めているのか謎だったのだが、よくよく考えれば実に簡単なことだった。 私が行くところなぞたかが知れている。それに大概はこの誰も寄り付かない給湯室で紅茶片手に一息ついているのだから居場所の特定は容易だろう。ただ私がいつ席を立ったのかさえ確認すれば事足りる。 (なんて短絡的な) 茅ヶ崎の、あいかわらずの読めない笑顔をぼんやりと眺めて、私はやるせなさを溜息にこめた。 「羽丘さん?」 自分のテリトリーにいれすぎたんだ、きっと。だからもう、彼の存在を自分でも無意識のうちに認め始めてきているのかもしれない。 茅ヶ崎が小首を傾げてこちらを見遣っているが、私はそんなことばかり考えていた。 「羽丘さん」 ふいに聞こえたその声に、私は驚いて顔を上げた。いつの間に距離を詰めたのかは知らないが、私の目の前に立っている茅ヶ崎がひどく柔らかな顔をしていることに何故かどきりとした。 「どうしたんですか」 静かな断定で尋ねるこの男のなんと勘の鋭き事。 どんな非礼でも許されるのなら、舌打ちしたい気分だった。 (できれば茅ヶ崎には今日、会いたくなかったんだけどな) 自分の感情を理解できない今日は特に。自分が何を口走るのか、私にはそれが怖かった。 だからこうしていつもより早く給湯室に身を潜めたが、どうやらそれがあだになったようだった。 茅ヶ崎というのは、あんな似非笑いばかりを繰り返す男だが、それでも人の機微を敏感にかんじるとることができる人物で。 悪魔だろうがサタンだろうが、ある程度の境界線さえ超えなければ奴という存在は本当に人に優しくできている。 そんな人間が、私の波打つ感情に気がつかないわけが無い。 怯えにも似た私の思いを、茅ヶ崎はやはりあっさりと看破したようだった。浮かべていた笑みはいつの間にか消え去っていた。 「羽丘さん」 有無を言わさぬその言葉はかなりの強引さであるはずなのに、どうしたことか茅ヶ崎がいえば妙にしっくりとくる。二十代半ばですでに人を掌握する術を知っているこの男は、どうして自分なんかにいまだちょっかいをかけてくるのだろう。 全てを促すその眼差しに取り込まれるように、私の口は本人の意思とは裏腹に開き始めていた。 「たくさんの人に聞かれた。その、茅ヶ崎と付き合いだしたのかって」 「―そうですか」 それだけできっと、全てを察したのだろう。憎らしいほどに洞察力に優れた後輩は、私の傍まで来たかと思うと、やおら私の肩をポンポンと撫でるように叩いた。 「茅ヶ崎?」 「あの時、初めて羽丘さんが俺を意識してくれてるって実感できて。ほんともう柄にもないくらい浮かれてしまったんですよね。自分でも自覚してます」 それは話かけるというよりは、どこか傍白に近い口調で。それでもきっと、隠し事一つ無い思いなのだろう。恐ろしく穏やかな顔をした彼は、私に苦笑をむける。それでもその眼差しは、こちらが視線を背けてしまいそうになるほどに優しくあまやかだった。 “ここ数日は全く種類が違うのよ” 今朝方の彼女の言葉が、胸をよぎった。 “ああ、この人本当に幸せなんだぁって、みてるこっちが逆に恥かしくなっちゃうくらい” 続きの言葉まで思い出してしまい何故か赤面してしまった私に追い討ちをかけるように、目の前の茅ヶ崎が愛しそうに笑う。 「で?」 「―?」 楽しそうに笑いながら、茅ヶ崎は何故か私の頬に手を添える。 ちょっと待て、なんで顎を固定する!? 硬直する私に、茅ヶ崎は殊更ゆっくりと笑みを作った。 「いわれたのは、それだけじゃないですよね?」 何いわれたんですか? そう尋ねてくる相手の顔は、この上なく意地悪で楽しそうで。 「嘘ついてもなんの特にもならないって、羽丘さんならお分かりですよね?」 なんでこんなことになってるんだ。呆然とする私の耳元で、悪魔のささやきがこだました。 「べ、別に何も…っ」 「羽丘さん?」 ニコリ。音が出そうなほどのその笑みの向こうで、サタンがいますぐにでも降臨せんと準備をしている様子が、様々と伝わってくる。 徐々に近づいてくる相手の尋問の声と顔そのものに抵抗するように顎をゆらしても、ふくよかな私の顎に食い込んだ指はそう簡単に取れないことは、悲しいほどに学習済みだ。 (あぁ、もう!) 「だ、だから!茅ヶ崎が」 どうせ私のことじゃない。茅ヶ崎のことだ。そんなことを考えながらも、私は情けなくもあっさりと白旗をあげたのだった。 「俺が?」 「君がすごいいい顔して笑うって。それみてるとこっちまで嬉しくなるって」 “この人本気で嬉しいんだって。いいなあ幸せそうだなって嬉しくなっちゃうような” 朝肩の女性の顔を思い出す。微笑ましいものをみるような眼差しまで思い出していた私は、いきなりずるずると視界から消えた男の行く先に慌てて視線を下げた。 「ち、茅ヶ崎―?」 給湯室の狭いスペースにしゃがみこんでいる茅ヶ崎をすぐに見つけて、私もならってその場にしゃがみこむ。俯いていた茅ヶ崎の顔を覗き込もうとすれば、ものすごい勢いで肩を押さえつけられた。 「それ、誰がいったんですか」 「―悪い、名前知らなくて」 経理の子っていうのはわかると補足すれば、彼はなぜか疲れたような笑みを零す。いぶかしんだのはほんの一瞬で、私は思い切りうろたえた。それもそうだろう、自分の首筋に他人のぬくもりだ。予期せぬ事態どころか、場所と人物を間違えたらそれはセクハラだ。 「参ったな。そこまで筒抜けだったか」 「え、何?」 ボソリといわれたその言葉はあまりにも近すぎて上手く聞き取れず、私は間抜けな状態で聞き返す。茅ヶ崎はそれに少しだけ目を眇めて、それから謎賭けるように笑みを浮かべた。 「自分では結構ポーカーフェイスだと思ってたんだけど」 「ポーカーフェイスというか。マスクだよな。思い切り似非爽やかの仮面」 いつもなら恐れおののいて言わない言葉だが、私の口から何のてらいなくそんな言葉が飛んでいく。なんとなく、今の茅ヶ崎には何を言っても許されると思った。 この体勢から相手の顔は見れないが、茅ヶ崎がクツリと笑ったような気がした。 「似非爽やかって」 「似非爽やかだろう、あれは。あきらかに悪魔飼ってます、みたいな」 まあでも、と私はこのごろ見る機会が多くなったもう一つ別の笑みを思い出しながらいった。 「私は君の素に近い笑顔を知ってるから、尚更そう思うのかもしれないけどな」 策士の顔ではない、年相応の笑い方のほうが、私の心の安寧もはかれる。そんなことを心内でひっそりと付け足しつつ顔をあげる。視線を何気なく茅ヶ崎のほうへ向けて、微かに息をのんだ。 (ああ、それ。それだよ) 柔らかい、悪魔も詐欺師もサタンもいない、温かな微笑み。穏やかな春の日差しのような眼差しに身構える隙もなく全身を包まれたような心地がする。 思わず息をのんで茅ヶ崎の顔を阿呆のように見つめ続ける他無かった。 だってそうだろう。茅ヶ崎の今の顔は、悪魔でも世紀のサタンでもなんでもない、本当に穏やかな普通の顔をしている。 いつも思うが、こんな顔をもできるのかと内心ひどく失礼な事を考えていた私だが、茅ヶ崎の言葉に我に帰った。 「そんなに見つめないでください。変な気起こしそうじゃないですか」 「悪かった、ほらもう即座に視線を離したから君もとりあえず私から10mほどはなれてくれるか」 いつの間にか背中に回されていた彼の手を勢いよく振り払って、私はシンクを睨みつけたまま早口にそうまくしたてた。 ここは会社だとかそれ以前に、相手はもうすでに何度かその“変な気”を起こしてしまっていて、そのたびにいつも被害をこうむるのは私なのだ。これくらいのすばやい対応と処置は心がけないと思うのが普通だと思うのだが、何を思ったか茅ヶ崎はクツクツと笑い出してしまった。 「ほんともう可愛いな、羽丘さんは」 褒め言葉なのか貶されているのかわからないその言葉に、私はただ不機嫌を表すかのごとく顔をしかめる。前面で不機嫌ですと訴えているというのに、茅ヶ崎はそれを知ってかしらずか上手に交わして尚も笑い続ける。そうなると私は尚更むっとするわけで。腕など組んで、私は茅ヶ崎を恨めしげに見上げた。 「そんなに笑うことか。私はそこまでおかしいことを言った覚えはないぞ」 「や、もうなんていうか。気持ちいいくらいの即答だったものだから、なんかつぼにきて」 即答で何が悪い。心の中でそういいながらも、自身で省みるに確かにかなりの速さでの返事だった。かもしれない。 「あーおかしい。ほんっとうに可愛い」 「今すぐ目医者に行ってこい」 少しばかり荒い話し方になったが、もうそれでも構わないと思った。そんなことに気を使っていられる余裕を、残念な事に私は持ち合わせてはいない。 憮然としたままの私を相手に、茅ヶ崎だけは一人コロコロと嬉しそうに笑って私の頭を無遠慮に撫でた。 「理性を手放してもいいのなら、色々としたいくらいだ」 「訂正する。今すぐ精神科へ出頭しろ」 青褪めながらも半眼で言い切ってやった私に、茅ヶ崎は呆れた顔で私を見下ろした。 「出頭って。あのね、羽丘さん。あなたはどうも自分が女だという意識が低いようだけれども。ちょっとは自覚してくださいね」 「何を?」 もっとおしゃれしろ、ダイエットしろなどという言葉を言うものなら、嬉々として言い返してやろう。 そんなけんか腰の気持ちで聞いていたから、思わず腰が抜けそうになった。 「俺からみれば、あなたは立派に恋愛対象だってことをですよ」 「っっ、なっ、だ」 (だ、だからそれが可笑しいんじゃないかっ) 喉から奇妙な音を漏らしてしまった私は、慌てて口を押さえながらも恨めしげに茅ヶ崎を見遣った。 「―病院をフルコースで回って来いっ!」 悔し紛れなその一言に、茅ヶ崎はここぞとばかりに愉快に笑った。 「羽丘さんと一緒なら、それも考えてもいいんですけどね」 お断りだと威勢良く言い放てば、茅ヶ崎は可笑しそうに笑ってから不意に真面目な顔になった。 「ねえ羽丘さん」 「なに」 ぶっきらぼうになる私に負けることなく、茅ヶ崎はさっきと同じ穏やかな微笑みをそのわりかし整った顔にのせる。 「俺、本当にあなたが好きです」 「―――っ」 一気に赤くなる頬を、誰か殴り飛ばしてくれないか。 顔を隠す事もできない私相手に茅ヶ崎は少しだけ策士の顔を覗かれるが、それでも穏やかな眼差しは変わらない。 (やばい) 会社の周りの人の反応とか、茅ヶ崎本人の行動とかそんなことではなくて。 一番やばいのは。 その笑顔好きかもしれない。 そんなことを思った私だと思った。
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